2010.06.22 繊研新聞出稿記事 「1990年代が新しい」

「1990年代ファッションビジネス」
80年代バブルが崩壊した後の90年代、我が国のファッションビジネスは大きな変化を遂げた。80年代バブル期にはDCブランドブーム、さらにイタリアブランドを中心としたインポートブランドブーム、また、ライセンスブランドもこの時期にピークを迎えた。また1990年には「紺ブレ」がヒットし、91年にはジュリアナ東京が話題となり、続く92年には「イケイケギャルファッション」の流行とバブル崩壊後も暫くは80年代の延長的な動きも見られた。しかし、このような動きと並行して91年には「エコブーム」、93年にはワールドから「オゾック」がデビューし、その後の「平成カジュアルブランド」ブームの先駆けとなった。また、翌年の94年には「リサイクル素材」が注目を集めるなど、80年代とは全く違ったファッションビジネスが注目され始めた時期でもあった。90年代中盤以降は、95年に「GAP」の日本進出があり、その後SPAブランドの台頭が始まるきっかけとなった。また、80年代が、エレガンステイストやモード感覚が重視されたのに対し、90年代には、カジュアル化が急激に進み、97年の「裏原ブーム」で頂点に達することとなった。まさに、GAP、ユニクロによるSPAブランドの台頭、平成カジュアルブランドのメッカとなったラフォーレ原宿、そして、裏原、ストリート、サーフ系ブームなど原宿を中心とした、カジュアル化の流れがマーケットをリードした時代だった。この流れは90年代後半から2000年代前半にかけてビンテージデニムやリメイクジーンズブームとなって拡大していくが、その一方で99年には、次の時代をリードした「渋谷109」のブームが始まった。今、ここで述べた90年代が再び注目を集めている。その背景には、現在の私たち消費者を取り巻く環境が、当時とオーバーラップしているためであると考えられる。


「1990年代と現在」
1991年バブルが崩壊し加熱した資産価値が収縮、その後、93年から97年には就職氷河期が到来、大手金融機関の破たんも相次いだ。まさにこの時期、先の見えない不安感が市場を覆っていた。そして、私たちが今置かれている立場も2008年の米国サブプライムローンに端を発した信用不安から始まった経済不況が、ヨーロッパにも飛び火して、ますます先行き不透明感を強めており、当時との共通性が多いように思われる。このように90年代と現在は、経済、社会環境の面から見たときに類似している点が多いと言えるだろう。90年代マーケットのキーワードとしては、「モノからココロへ」「脱高級ファッション」「ミニマル化」「グランジファッション」などである。そして、今、私たちが注目しているキーワードとしては「物質的価値から精神的価値への移行」であり、「幸せ」の今風の定義である。お金をたくさん持っていることの幸せや高級品を持っていることの幸せよりも、人間的で普通の幸せ、または継続的な幸せ、身の丈に合った幸せ、さらには自然や環境のことを考えた幸せということだろう。


「1990年代トレンドの再浮上」
最近、90年代ストリートファッションや裏原の流れを汲んだ話題が増加している。裏原のカリスマとして人気を集めた藤原ヒロシ氏は、昨年から相次いで3冊の本を出し、ネイバーフッドは新ライン「LUKER BY NEIGHBORHOOD」を立ち上げ、visvimのデザイナー中村ヒロキ氏はモンクレールVのデザイナーに抜擢された。また、SUPREMEはトム・ブラウンとコラボレーションを行い、エイプはユナイテッド・アローズとMr,BATHING APEを立ち上げた。このように多くの話題があり、この流れはストリートファッションにも現れ始めている。90年代後半に10代で裏原ブームを経験した人たちは30代になっているが、懐かしく親しみのあるファッションとして楽しんでおり、また、当時を知らない今の10代にとっては新鮮なファッションとして映っているようだ。今後は90年代の復活ではなく、現代のニーズに合わせた進化を行うことで新たなストリードトレンドとして拡大する可能性が高いと思われる。



20代後半〜30代に向けた大人のメンズストリートファッション誌「GRIND」



2010年3月に発売された「カルト・ストリートウェア 」
ブランドの略歴、作風、デザイナーのアプローチの仕方などが豊富な写真と共に語られている。