ヨウジヤマモトの民事再生、求められる戦略的クリエーション

こんにちは、安部です。


10月9日、衝撃的なニュースを知りました。
ヨウジヤマモト民事再生!!」


ヨウジヤマモトの売上高は99年度のピーク時には約120億円でしたが、09年度では75億円にまで落ち込み、信用情報によると負債は60億円にのぼるということです。資金繰りに行き詰まって、自主再建を諦めたとのことです。


ヨウジヤマモトは10SSのメンズコレクションに参加しなかったですし、経営状況が悪化しているという噂は耳にしていましたが、「とうとうここまできたか」と悲しい思いになりました。


ヨウジヤマモト山本耀司)はコムデギャルソン(川久保玲)と同じく1981年にパリコレクションで鮮烈なデビューを果たしました。従来のクチュール感覚のプレタポルテに対して、非対称でねじりを入れたような構築的なビッグシルエット・生地を意図的に破いたり穴を開けるテクニックなど、全身ブラックのアヴァンギャルドなショーは、後に「黒の衝撃」とモード界に評され、*アントワープ6など多くのデザイナーに影響を及ぼしました。


デビューから今までトレンドに媚びることなく、一貫して自らの価値観を投影する山本耀司の服に、私は10代の頃から憧れを持っていて、「いつかは、ヨウジヤマモトの服を格好良く着こなしたい」と思っていました。私のその思いは変わらないですし、ヨウジヤマモトのクリエーションも変わりませんでしたが、時代は変わってしまったようです。


ルイヴィトンが銀座出店を断念した跡地にGAPが2011年に出店を予定し、その近隣には今年の12月にアバクロンビー&フィッチがオープンし、ZARAH&Mユニクロも近接しています。ラグジュアリーブランドが淘汰され、ファストファッションが勢いを増しており、同様にモードの世界の淘汰も加速化しているといえます。


それでは、ヨウジヤマモトには衰退の道しか残されていなかったのでしょうか?その答えは、同じ1981年にデビューしたコムデギャルソンが握っているように思えます。


コムデギャルソンは好調とは言えないまでも、厳しい経済環境下で健闘しています。ヨウジヤマモトとコムデギャルソンの明暗を分けたのは、企業戦略の違いであると考えます。その違いは、外部から判断できることとしては「トレンド・世代交代・投資」に対する取り組み方です。


・トレンドについて
コムデギャルソンは、従来の大きめのシルエットを現代風にシャープに修正し、各シーズンのファッショントレンドを取り入れています。一方で、ヨウジヤマモトは独自の世界観を重視して、トレンドを加味した服作りをあまり意識していないように思えます。


・世代交代について
コムデギャルソンは、PLAY COMME des GARÇONS・JUNYA WATANABE COMME des GARÇONS・tao COMME des GARÇONSなど、次代のデザイナーを起用した多角的なブランド運営で幅広い顧客の獲得に成功しました。また、H&Mとのコラボレーション、期間限定の廉価ラインの販売なども行い、話題性を作るとともに巧みにブランドの敷居を下げました。一方で、ヨウジヤマモトはY’s、Y-3などのセカンドラインを発表するものの幅広い顧客に受け入れられず、世代交代も進んでいないものと思われます。


・投資について
コムデギャルソンの投資については不明ですが、近年のヨウジヤマモトの海外投資は収益性を熟慮していなかった可能性があります。アントワープ(2007年)、ニューヨーク(2008年)、パリ(2009年)に続々と旗艦店をオープンさせましたが、景気後退の影響を大きく被って売上が急減し、財務状況が悪化して今回の民事再生に至っています。


ヨウジヤマモトの企業再建は、2005年にワールドのMBO非公開化を進めたことで知られるインテグラルという投資会社が担うことになります。インテグラルは短期リターンを狙う投資ファンドではなく、自己資金とファンドで調達するハイブリッド型投資を行うため、ヨウジヤマモトには長期的な支援が期待できるそうです。インテグラルは当面の財務的なサポートを行い、強烈なブランドの方向転換はしない方針とのことで、私個人的にはヨウジヤマモトには今までと変わって欲しくないため、ひと安心です。しかし、企業再生には痛みを伴う革新が必要な場合が多く、また、再生プロセスに入ると債権者やスポンサーの意向に沿った経営をせざる得ないのも事実で、今後の動向に注目が必要です。


ヨウジヤマモトはブランドの美学・哲学を軸としたプロダクトアウト型の「精神的クリエーション」でした。しかし、商業主義を嫌ってブランドの存続を実現できなければ意味がありません。これからの時代は、高度なマーケティング・財務管理で武装した「戦略的クリエーション」でなければ、才能溢れるクリエイティブなブランドもサバイバルで生き残れないのかもしれません。


*アントワープ
ベルギーのアントワープにあるアントワープ王立芸術学院出身の6人のデザイナーの総称。(アン・ドゥムルメステール 、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク 、ダーク・ヴァン・セーヌ 、ダーク・ビッケンバーグ 、ドリス・ヴァン・ノッテン 、マリナ・イー)