2009.06.09 繊研新聞出稿記事 「団塊世代マーケットについての再考」

団塊世代マーケットについての再考

団塊世代とは1947年〜1949年のベビーブームで生まれた世代を指し、今年で60才〜62才になる。年齢を2才広げて58才〜62才の5年齢の人口では1,063万人となり、日本の人口の約8.4%を占めることになる。したがって、団塊世代に受け入れられる商品は即ヒットとなるため、企業はマーケティングを行う際に団塊世代を重要な顧客として捉えている。このようなことから、定年退職して時間とお金が豊富になる団塊世代が大量発生し、大きな消費マーケットを築くとマスメディアや産業界は注目していた。しかし、その目論みがはずれたのか、団塊世代の定年退職によってマーケットは拡大していない。そこで、本稿ではあらためて団塊世代の特性を言及するとともに、ファッション産業視点で「団塊世代マーケットが拡大しない理由」を分析し、さらに「団塊世代に向けた今後の取組み」を提案する。

団塊世代マーケットが拡大しない理由」
■年金受給開始年齢と再雇用
団塊世代の男女に対するアンケートで、収入を伴う仕事をしたい上限年齢は「61才〜64才」が15.5%、「65才」が48.8%、「66才〜69才」が1.9%、「70才」が19.6%となっている(08年06月労働政策研究・研修機構調査)。「65才」が48.8%と最も高い理由は、老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給開始年齢が原則的に65才に引き上げられたためであると考えられる。したがって、60才〜64才は年金所得がないため、定年退職後も正社員・嘱託・契約社員など再雇用として働くケースが多くなる。つまり、団塊世代は定年の60才を迎えても完全にリタイアしたとは言い難く、可処分所得・可処分時間も多いわけではない。そのため、趣味や道楽やリタイアライフを打ち出した商品の提案を受け入れようと考える団塊世代は、まだ多くないのである。このような需給のギャップが、数多くあるように思われる。
団塊世代の価値観や感性
団塊世代の少年期・青年期である1960年代に、団塊世代の間でファッションの概念が浸透して、アイビーやヒッピーなどのスタイルが流行し、ジーンズやミニスカートが定着した。また、団塊世代アメリカを中心とした欧米文化に憧れを持ち、レジャーやドライブを楽しみ、現在の若者文化の基礎をつくった。団塊世代が体験してきたモノや文化は、現在63才以上のシニアとは異なり、価値観や感性も同様に異なるのである。したがって、63才以上のシニアに向けたマーケティング手法で、団塊世代にアプローチしても受け入れられないのである。団塊世代ミセスに対しては、63才以上のシニアへの提案で重要な「機能性」「汎用性」「クオリティ」にプラスして、「ファッション性(トレンド性)」「明快さ(VPやVMD)」「サイズ」「楽しさ」の訴求が重要となるが、現状はできていない売場やブランドが多いように思われる。

団塊世代マーケットに向けた今後の取組み」
■2012年に本格増加するリタイア団塊世代に備える
団塊世代の年金受給開始である2012年になると、年金所得により収入が発生するため再雇用として働いていた人のなかからリタイアする人が増えて、お金・時間に余裕ができ始め、様々なレクリエーションを実施すると考えられる。その頃に団塊世代マーケットで優位に立つために、今のうちから団塊世代に向けた売場やブランドを開発することが望ましい。なぜなら、第一に、早い時期に参入して売場・商品が認知されれば、そのカテゴリーの代名詞となることが可能であり、後発の競合に対して参入障壁をつくることができるためである。第二に、商品開発・売場開発・マーチャンダイジング・顧客分析などのノウハウを先行して蓄積しているので、その経験効果によって競合と有利に競争を行うことができるためである。
■最適なターゲットを選定する
注意しなければならないのはターゲット選定である(図参照)。なぜなら、団塊世代の好むテイストは様々であり、マーケットが細分化されているためである。したがって、ファッションテーマ性の濃い一般アパレル型の売場やブランドを開発する際には、ワンテイストで団塊世代全体をカバーすることは難しい。そのため、50代・40代などで同じテイストを好む顧客を含めたターゲット選定が有効である。一方で、団塊世代マーケット全体をターゲット選定したい場合には、スポーツ・ガーデニング・ナイトウェアなど、ファッションテーマ性の薄いライフスタイル型の売場やブランドを開発することが望ましい。