2009.02.10 繊研新聞出稿記事 「20代生活者の「和」回帰」

私の抱いていたイメージでは、人は年を重ねるごとに自分の生まれ育った土地や国への愛着が増し、その文化や伝統に興味を持ち、後世に伝えようとする意識が高まると思っていた。しかし、これは間違った考えで年配者よりもむしろ若い人たちのほうが、和の生活や文化に関心が高いようである。表はお祭りの催しに出かける人の割合を年代別にあらわしたものであるが、女性の場合50代、60代が40%台であるのに対し若年層の方がその割合が高く、特に20代女性では72.5%という高い数値になっている。時間的な余裕との関係もあると思われるが、20代の7割強は想像以上に高い数値と言えるのではないだろうか。また、着物への関心が高まったと答えている人は30代以上ではすべて20%未満であるのに対し、20代は38%と倍前後の高い比率となっている。このほか全日本きもの振興会による「きもの文化検定」では、学生、主婦の受験者が急増し2007年は2006年比約2500人増で受験者の合計が1万人弱となった。また、日経産業地域研究所による「子供あるいは次世代に伝えたいこと」の回答では、20代で「雅などの京風の美意識や季節感」が40.5%で1位となり60代の15.1%を大きく上回った。当社では生活者のライフシーン別着用実態調査を行っており、定期的に結婚式のゲストドレスの着用調査を実施しているが2007年秋以降、振りそでなど和服を着用する20代ゲストの数が急増している。このようにさまざまなデータを分析してみると若年層、特に20代に急激な「和」の意識の高まりを感じる。このような世代間の価値観変化の背景として、50代、60代は戦後の高度経済成長とともに歩んできて新しい商品、欧米生活への憧れ、機能性や利便性の追求など、古典的なものへの憧れよりもむしろ現実志向、未来志向が強く、その結果、古典的なものへの関心が低くなったと考えられる。一方、今の若者は「モノ余り」の時代に成長し特に20代は91年のバブル崩壊後に10代を迎えたために保守的な価値観が強く、このことと「和への回帰」に深い関連性があと考えられる。20代独身者の月当たり平均貯蓄額が3万円を超えるなど、今を楽しもうとするのではなく将来を見据えた生活を送ろうとする考え方など、30代以上の世代とは異なった生活観、価値観を持つ世代であると考えられる。昨年のリーマンショック以降の不況はこの20代の働く場を減らし収入を減少させている。


「新たなファッションビジネスの模索」

彼らにシーズンごとに変化するトレンドを次から次へと提案し、新しい商品を消費するといった考え方が当てはまらなくなりつつあるのではないだろうか。欧米生活に憧れ、ヨーロッパから発信されるさまざまな情報を、機械的に商品化し店頭で販売するといった手法はむしろ、上の世代の価値観には合っていても20代以下の世代の価値観とはズレているようにも思われる。最近、トレンドの中にも、原点回帰や不変的なものへの憧れなど、革新的なものとは対象となるキーワードが増加している。突然、若者が和服を日常的に着用することは考えにくいが日本人の若者が持つ特有の価値観を無視して欧米主導のファッションビジネスを続ければ、いずれ、作り手、売り手と顧客の求める商品との間に大きなギャップが生じるかもしれない。健康、知性、教養、アート、民族性、文化、未来、ミステリアス、融合、環境、エコロジー、伝統、原点回帰など、さまざまなトレンドの背景となるジェネラルなキーワードに彼らの望む「和」や「雅」といった特有のキーワードを加え、そこから次のトレンドを予測するようないわば日本型のトレンド予測を行うことが、次の時代を切り開いていく手法となりえるのではないだろうか。むしろ、そこから生まれる日本独特のトレンドを作ることが海外からも認められ世界に通用する日本型ファッションビジネスを構築することになると考える。
このように顧客の視点で考え、世代による価値観の違いや経済環境の変化などを読み取り、自分たちの顧客が今、何を求めているのかを考え提案する具体的な手法が必要となっている。大手企業を中心に人員削減が進み失業率は4%台に上昇した。所得の低下による客単価の減少、人口減少や買い控えによる客数の減少と売り場は極めて厳しい状況にあるが、このようなときこそ新たな切り口の新たなビジネスモデルが求められる。攻めのマーチャンダイジングとして活用してほしい。